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養護施設における子どものADHD症状:セロトニントランスポーター遺伝子多型による調整効果

更新日:2021年5月7日


 

論文紹介


Baptista, J., Belsky, J., Mesquita, A., & Soares, I. (2017). Serotonin transporter polymorphism moderates the effects of caregiver intrusiveness on ADHD symptoms among institutionalized preschoolers. European Child & Adolescent Psychiatry, 26(3), 303-313.

 

研究の背景


多くの国では、子どもたちは様々な背景によって両親から離れ、養護施設で暮らしています。この研究が行われたポルトガルでもそうらしいです。


養護施設の子どもたちは、メンタルヘルスの問題が生じやすいといわれています。とくに、施設で過ごす子どもたちは、両親と暮らす子どもと比較して、注意欠陥多動性障害(ADHD)の症状が高いことが研究で報告されています。施設で過ごす期間が長いほどそのようなリスクが高いそうです。


しかし、差次感受性理論を踏まえると、養護施設での過ごす期間の長さがADHD症状にとってリスクになるか否かは、子どもの感受性の個人差によって調整されるかもしれません。

そこでBaptistaらはこのような可能性を検討しました。



研究の内容


研究対象となったのは、ポルトガルの一時ケアセンター(temporary care center)で過ごす127名の子どもたちです(うち男子74名)。調査時、子どもたちの平均年齢は約55か月(約2.3歳、標準偏差11か月)でした。


施設の養育者は、子どものADHD症状を尺度によって評価しました。また、子どもがおもちゃで遊んでいるときの養育者のかかわりをビデオで録画し、養育者が子どもの活動にどの程度「協力的か」あるいは「干渉的か」を第三者によって評価されました。子どもの感受性は、子どもから唾液を採取し、セロトニントランスポーター遺伝子(5-HTTLPR)の型を特定することによって測定されました。



分かったこと


分析の結果、子どもの感受性の個人差によって、施設の養育経験から受ける影響が異なることが示されました。具体的には次の通りです。


【感受性が高い(5-HTTLPRのs/s型、s/l型)子ども】

・施設の養育者が協力的なかかわり方をするほど、感受性が低い子どもと比べて、ADHD症状が低い。

・施設の養育者が干渉的(非協力的)なかかわり方をするほど、感受性が低い子どもと比べて、ADHD症状が高い。


【感受性が低い(5-HTTLPRのl/l型)子ども】

・施設の養育者が協力的あるいは干渉的なかかわり方をしても、ADHD症状は変化なし。



示唆されること


この結果は、感受性が高い子どもが、養育の質によって「良くも悪くも」影響を受けやすいという差次感受性を支持するものでした。


臨床的な示唆として、この研究では、たとえ環境が十分に整わない養護施設であっても、養育者が子どもにとって協力的なケアを提供することで、とくに感受性の高い子どものADHD症状を抑えることができると述べています(同時に、施設の整備を進める重要性も述べています)。



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